『ワールド・オブ・ライズ』米国がテロとの戦いから抜けられないワケ

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2008年公開のCIAスパイ映画『ワールド・オブ・ライズ』(Body of Lies)は、リドリー・スコット監督ならではの爆破・戦闘アクション、複雑で最後まで予測のつかないプロット、レオナルド・ディカプリオとラッセル・クロウという大物俳優の共演など、スパイ映画に求めるものがつまった映画だ。

米国の対アラブ世界に対するテロとの戦いというテーマを扱ったものだが、米国を一方的な正義として描かず、国内に広がる厭戦感情を反映している。社会的メッセージもある。評論家の間の評価は少々低いようだが、エンターテイメント性を追求しながらボンドシリーズよりリアリティのある映画を求めるならばおすすめだ。

実話ではないが現実的

脚本はデイヴィッド・イグナティウスの2007年の同名小説に基づいている。イグナティウスはウォール・ストリートジャーナルの記者を経てワシントンポスト紙のエディターを務めている。司法省やCIAといった政府の中枢を取材し、レバノンやイラク戦争の報道に従事したほか、シリアのアサド大統領や今年9月にイスラエル国防軍によって殺害されたヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師にインタビューした経験のある一流のジャーナリストだ。

物語はフィクションだが、同氏の取材経験を通じた知識と洞察が根底にある。

ディカプリオ&クロウのCIAコンビとともに作品に重要な役割を果たすヨルダンの情報機関のトップであるハニ(マーク・ストロング)については、実際に同国の諜報局の長官を務めたサアド・カイルがモデルとされる。サアドは2000年代初頭に中東の諜報界で名の知られた存在だったといい、イグナティウス自身が本人に直接話を聞いたとも報じられている。

映画では、CIAのスパイドローン「プレデター」を想定したと見られる上空からの映像がたびたび登場する。ラングレーのCIA本部でラッセル・クロウ演じるエド・ホフマン(現地で工作活動をするディカプリオの上役)が、ドローンから送られるストリーミング映像を通じて判断を下し、ロジャー・フェリス(ディカプリオ演じる工作員)に電話で細かな指令を下す。

極めて鮮明な画像で、オペレーターがマウスひとつで操作する。ボーイングの関連小会社Insituのプロダクトマネージャーはポピュラー・メカニクスの取材に対して「かなり正確だ」と話している。

ハード面だけではない。作品はCIAのハンドラーと工作員の関係性にも焦点を当てているが、ディカプリオとクロウは役作りのために元工作員から話を聞いたとも明かしている。

なお、CIAの工作員に対するマネジメントスタイルが、先述のヨルダン諜報局のハニのそれと対置されている点も興味深い。

原作には、第二次世界大戦中にイギリスの諜報機関がナチス相手に展開したミンスミート作戦が影響を与えたとも言われている。映画に描かれるCIAのやり口は、醜くて観ていてうんざりする部分もある。工作員が身バレしないために敵方に捕まった情報提供者を殺害したり、標的を誘き出すために米軍の軍事拠点を爆破するという仰天の偽旗作戦を敢行したりもする。

ネタバレしないために結末に言及することは避けるが、何よりもリアリティがあるのは、こうしたテクノロジーと人的優位性にも関わらず、米国がいまだテロとの戦いに勝利を収めることができず、それどころか出口を失ってしまった感があるところだ。なぜそうなったのか。映画ではハード面、米国当局者の心理面からその理由も探求している。単なる娯楽を超えたスパイ映画。この手のジャンルで何を観ようか迷ったらおすすめだ。

ワールド・オブ・ライズ(2008)

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