マーティン・スコセッシ監督のギャング映画の名作『ギャング・オブ・ニューヨーク』で抗争の舞台として登場するのが、かつてロウアーマンハッタンの一角にあった「ファイブ・ポインツ」です。
この付近は1800年代、アイルランドで発生した大飢饉から逃れてやってきた移民が大量に暮らし、疫病と犯罪、売春がはびこる最悪のスラム街だったそうです。悪名は世界中に轟き、海外から見物客が訪れるほど。イギリスの作家チャールズ・ディケンズも1842年に警官2人の付き添いの下で同地を訪れました。映画の中でも、アッパーマンハッタンに暮らす上流階級の家族が物見遊山する場面があります。
現在は運動場を備えたコロンバス・パークと裁判所をはじめとする司法施設が立ち並んでいて、かつての面影はありません。ファイブ・ポインツが行政上の正式名称として残されているか不明ですが、Baxter St.とWorth St.の交差地点にひっそりと標識が立っています。近くのニューヨーク刑事裁判所の向かい側にある「Collect Pond Park」と呼ばれる公園に、当時の様子を解説したオブジェクトがあり、メトロポリタン美術館2階のギャラリー758には、作者不明のファイブ・ポインツの絵画があります。
映画は史実にゆるく基づきつつ、友情、裏切り、復讐、汚職、大義をかけた戦いといったマフィア物のエッセンスがすべて凝縮されています。時代は南北戦争の動乱の最中で、それはスラムのギャングにも無関係ではありませんでした。主役のレオナルド・ディカプリオが父親(移民ギャングのリーダーだった)の復讐を果たすダニエル・デイ=ルイス演じる悪役ビル・”ザ・ブッチャー”カッティングは、奴隷制廃止反対論者であり、その大義はカトリック移民の侵略からアメリカを守るというものでした。民主党の集票マシーンでニューヨークの政治を裏で牛耳ったタマニー・ホールの親玉、ウィリアム・トゥウィード(ジム・ブロードベント)は、移民支援を掲げていますが、それは単なる党略の道具であり、移民の死体を見て「票が失われた」とつぶやきます。暴力描写やセリフの端々にある差別が生々しい作品ですが、2024年の大統領選を控える今、人種や移民、宗教グループに基づく偏見や対立はあまり変わっていない、そんな気がします。
所在地:ニューヨーク/ロウアー・マンハッタン、Baxter St.とWorth St.の交差地点付近
最寄駅:地下鉄6番線 City Hall駅